
同じ産地の緑茶でも、「甘い」と感じる一杯と、「渋い」と感じる一杯があります。
その違いはどこから生まれるのでしょうか。
春はまだ遠い、二月のある日。
山あいの空気はひんやりと澄み、茶工場には凛とした静けさが漂っていました。
今から3カ月後、ゴールデンウィーク明け、母の日の頃。
佐藤園では新茶の出荷が始まります。
冬の茶畑の様子や今年の新茶の出来について話を伺っているうちに、話題は次第に“火入れの工程設計”へと移っていきました。
お茶の「火入れ」とは、製茶の仕上げ段階で茶葉に熱を加え、水分を整えながら甘く香ばしい火香(ひか)を引き出し、味の輪郭を整える重要な工程です。
- 若芽をどの比率で組み立てるのか。
- 火を強くすれば香りは飛び、弱すぎれば水分が残り品質が落ちやすくなる。
- 茶葉本来の甘みを引き出しながら、品質保持も叶える火入れのバランスが求められる。
今回は、佐藤園の仕上げ製造責任者である工場長に、「芯蒸し茶」を飲み比べながらお話を伺いました。
キーワードは“若芽比率”と“火入れ技術”。そして、上級茶が甘く感じられる理由です。
山で育つお茶はなぜ美味しいのでしょうか。
昼夜の寒暖差や霧など、山間地ならではの自然環境が生み出す味わいの秘密をひもときながら、平地栽培との違いと、佐藤園の「芯蒸し茶」の魅力をご紹介します。
佐藤園の「芯蒸し茶」は、山の自然が育んだ恵みを閉じ込めたお茶です。


山のお茶が育つ環境
佐藤園は、静岡市の山間地に茶畑を構え、栽培から製茶、販売までを一貫して手がける茶業者です。傾斜地に広がる茶畑では、平地のように大規模な機械を使った効率的な大量生産はできません。しかし、この環境こそが山のお茶の魅力を育てています。
昼夜の大きな寒暖差や、山あいに立ちこめる霧。
こうした自然条件の中で、茶葉はゆっくりと時間をかけて育ち、旨味成分をじっくりと蓄えていきます。平地栽培では日照量が多く生育も早いため、葉がやや硬くなりやすい傾向があります。
一方、山間地では寒暖差や霧の影響によって生育が穏やかになり、旨味を蓄えやすいといわれています。佐藤園では、こうした山のお茶の個性を最大限に引き出すため、葉の“芯”まで蒸しを入れる独自の「芯蒸し茶」製法を開発しました。
茶葉の内部まで均一に熱を通すことで、濃厚でまろやか、とろみのある味わいに仕上げています。大量生産ではなく、区画ごとに茶畑と向き合う適量生産。
山の自然が育てたお茶の恵みを、そのまま一杯に届けています。大五グルメセレクションブログ Shogun’s Tea Satoen | 大五グルメセレクションブログ https://youtu.be/tyeNZxP2tYc 徳川家康が愛した茶の理想郷、本山。800年を超えて紡がれる香りの物語。 Honyama, the ideal place for tea loved by Tokugawa Ieya
緑茶の味の違いは「茶葉の若芽比率と火入れ技術」で決まる
みるい ≒ 若くて柔らかい

茶葉の若芽(みるい芽)が甘い理由
「みるい」とは、若く柔らかい状態を表す言葉です。お茶の世界では、若い芽のことを「みるい芽(みる芽)」と呼ぶことがあります。特徴は、
- 繊維質が少ない
- アミノ酸含有量が高い
- 組織が柔らかく、熱が入りやすい
特に、旨味の主体となるアミノ酸は、葉が成長するにつれて少しずつ減少していきます。そのため成葉の割合が増えると繊維質が多くなり、どうしても渋味が前に出やすくなります。
火入れは、茶葉が持つ甘みと旨味をバランスよく引き出すための工程です。みるい芽は旨味を多く含む一方で、扱いが難しい繊細な茶葉でもあります。
佐藤園のお茶と一般的なお茶では、何が一番違うのでしょうか。
大きな違いのひとつは、火入れの工程にかける手間です。佐藤園では、一葉から三葉あたりの柔らかい部分を中心に、お茶の設計を行っています。
摘採した茶葉は、そのまま火入れをするのではなく、大きさごとに三段階に選別します。
それぞれの茶葉の特徴に合わせて、最適な火入れを行うためです。
- 大葉:やや強めに火を入れ、味の輪郭を整える
- 中葉:味が濃いため、甘みを引き出す火加減にする
- 小葉:香ばしさと水色の発色(色出し)を意識する

茶葉の大きさを揃えて火入れを行うことで、葉の内部まで均一に熱が入り、全体の味わいが整います。もし不揃いのまま火入れをすると、ある葉は過加熱になり、別の葉は加熱不足になるなど、風味のバランスが崩れてしまいます。こうした細かな調整の積み重ねが、佐藤園の「芯蒸し茶」の味をつくっています。
若い芽は繊維質が少なく、アミノ酸含有量が高いのが特長です。
旨味の主体となる成分が豊富なため、この段階でお茶の味の骨格がほぼ決まるともいわれています。まさに火入れ設計の技術力が問われる工程です。一方で成葉が多く混ざると、繊維量が増え、渋味が前に出やすくなります。
そのため、若芽中心の原料設計と精密な火入れ制御が、甘みと透明感のある味わいを生み出す鍵となります。
実物を見ると、茶葉の細さは茶種ごとに大きく違う
「細さ」は、見た目以上に重要
茶葉が細く、均一に撚(よ)れているかどうかは、お茶の仕上がりを左右する大切なポイントです。
細い茶葉は体積密度が高く、山にすると低く締まります。一方、太い茶葉はどうしてもかさばりやすくなります。
葉の太さや細さは見た目の違いだけではありません。実は、火入れの際の熱の入り方にも影響します。
そのため佐藤園では、茶葉の大きさを三種類に分け、それぞれに適した火入れを行っています。こうした細かな調整が、お茶の味と香りのバランスを整えていきます。

茶葉の色は“濃さ”ではなく“透過感”

茶葉の色の違いをじっくり見る
よく「濃い緑=良いお茶」と思われがちですが、実際にはそれほど単純ではありません。
上級茶は、やわらかな緑色をしていて、わずかに黄色味が差すことがあります。いわば、光を通すような“透過感のある緑”です。
一方で黒みが強い場合は、原料の状態や仕上げ工程の影響が出ている可能性もあります。茶葉の色を見るときは、単なる濃さではなく、その透明感にも注目することが大切です。
茶葉は大きさをそろえてから、適切な「火入れ」をする
手間をかけたひと工程、茶葉の分別
茶葉はまず、大きさごとに分別します。一般的には、ふるいにかけて異物を除く工程とされていますが、佐藤園ではこれを“火入れ設計の前処理”と考えています。
細葉・中葉・やや大きめの葉に分け、それぞれに合った火入れを行う。こうすることで手間はかかりますが、茶葉の水分量をちょうどよく、均一に整えることができます。
もし大きさの違う茶葉を同じ温度で一緒に火入れすると、細葉は過加熱になり、大葉は加熱不足になります。その結果、仕上がったお茶の味わいにばらつきが生まれてしまいます。
こうした細かな調整が、お茶全体の味を整える大切な工程になっています。

火入れは「強い・弱い」という表現だけでは語れない

火入れの三つの役割
私たちはよく「しっかり火入れをする」と表現します。しかし、火入れは単に強い・弱いだけで語れる工程ではありません。
- 水分量を安定させること
- 香りを引き出すこと
- 青臭さを取り除くこと
ただし、火を入れすぎれば繊細な香気成分は飛んでしまいます。かといって弱すぎれば、水分が残り、保存性が落ちてしまう。
茶葉の状態は毎年同じではありません。
とくに若く柔らかな「みるい芽」は、火入れの加減がとても重要になります。茶葉の状態を見極めながら、甘みを引き出す火入れを行っています。
茶葉の状態は毎年異なります。とくに、若く柔らかな「みるい芽」は、火入れの加減がとても重要になります。状態を見極めながら、甘みを引き出す火入れを行っています。
香りを引き出す仕上げの技術
佐藤園のお茶の特長は、何よりも香りの良さです。
この香りは、手間ひまをかけて行う火入れの工程によって生まれます。ぜひ封を開けた瞬間に立ち上がる、やさしい甘い香りを楽しんでいただきたいですね。
茶葉のレシピは決まっているのでしょうか?
固定レシピはありません
の年の日照量や摘採の時期、気温の推移によって、茶葉の状態は大きく変わります。葉肉の厚みや水分量、芽の柔らかさも、毎年まったく同じということはありません。
そのため私たちは、蒸し上がった荒茶の状態を実際に確認しながら、その年の茶葉に合わせて火入れの時間や温度を調整しています。
いわば毎年、茶葉に合わせて“設計し直す”という感覚です。お茶は工業製品ではなく農産物ですから、同じ条件が毎年そろうことはありません。

では、毎年味は変わるのですか?

実際は、細かな違いはある
長くお付き合いのあるお客様の中には、「いつもと少し違う?」とおっしゃる方もいらっしゃいます(笑)。それも、自然が相手の農産物ならではのことかもしれません。
私たちが目指しているのは、毎年同じレシピで作ることではなく、その年の茶葉の状態を見極めながら、「佐藤園らしい味わい」を安定してお届けすることです。
自然が相手の農産物だからこそ、毎年少しずつ表情は違う。それでも、封を開けた瞬間に広がる香りや、お茶のやさしい甘みには「佐藤園らしさ」を感じていただけるように仕上げています。
新茶の魅力|みるい芽ならではの、甘くやさしい香り
お茶は上質なものから出回り始める
新茶は、みるい芽を多く含む上質なものから出回ります。水分量が多く、香りは華やかですが、まだ状態は不安定です。
佐藤園では、茶園で収穫してから2時間以内に加工を開始し、鮮度の高いうちに荒茶まで仕上げます。新茶ならではの香りを損なわないためです。
その後、一定の水分まで調整し、低温で管理します。そして、仕上げの直前に最終の火入れを行います。
これは、新茶特有の華やかな香りを引き出しながら、保存性も整えるための工程です。効率だけを優先しない製造工程へのこだわりが、佐藤園のお茶にふくよかな香りをもたらしています。
自然の恵みである新茶は、年ごとに葉の状態も少しずつ異なります。その年の茶葉を見極めながら仕上げることで、山のお茶ならではのやさしい甘みと香り、そして「佐藤園らしい味わい」を引き出しています。

山のお茶が美味しい理由まとめ
- 山の寒暖差で旨味が蓄積
- 若芽(みるい芽)が多い
- 火入れ設計で甘みと香りを引き出す
いかがでしたでしょうか。
深くて面白い、お茶の世界。
知れば知るほど、まだまだ知らないことがあると感じました。
畑の環境や栽培の工夫、そして製茶の技術によって、同じ緑茶でも味わいは大きく変わります。山で育つお茶は、寒暖差や霧といった自然の条件の中で、ゆっくりと旨味を蓄えていきます。
佐藤園では、そうした自然の恵みを大切にしながら、若芽の個性を引き出す火入れの技術によって、香り高く甘みのあるお茶づくりを続けています。これからも、山のお茶の魅力や緑茶の奥深さを、少しずつお伝えしていけたらと思います。

\ ありがとうございました /
∈(゚∈∋゚)∋
また見てね

